『ミサイルマン』 平山夢明
(『ミサイルマン』平山夢明 光文社、光文社文庫 所収)
―― 今は空洞となっている眼窩に潜り込んでいる何かの瞳が一瞬、キラリと反射したが、それは頭のさらに奥深くへと逃げ込んだ。 ――
耽美系でない国内ホラー書籍としては、相当読まれたんではないかと思われる平山夢明第二短編集『ミサイルマン』表題作。
今じゃ文庫化され古書店でも安く売ってるこの本、私はかなりお安くない値段のハードカバーを出るなり買いました。
なので帯が残っているのだが、そこに赤字で「突き刺され。これが小説だ。」とある。なんてかっこいいコピーなんだ。
(これが小説だ、って言われてもなあ、というツッコミも想定の内なのかどうかまでは知らない。)
著名だし、問答無用で面白い作品なので、内容分析は短めに。
面白い状況、面白いキャラクター、面白い比喩表現、平山作品でもここまで軽快で楽しい、それでいて内容は最悪ってのはなかなか無い。
面白方向での最高峰といっても過言ではない。
極めて感情移入しにくい境遇の主人公を提示し、しかし生理的嫌悪感表現の執拗さや滑稽な泣き笑いによって、主人公の方へ読者を引きずり込もうとする。
少なくとも私はそう感じた。いつのまにやら感情移入させられている!と。
まあ、完全に突き放した上で、勧善懲悪話として読んでも、それはそれで楽しめるのかもしれないけれど。
しかし、腐乱、ってきっついですね。
鮮血や拷問や新鮮な肉塊とは、また違った辛さがある。
潔癖症の傾向があるのか人として普通なのか知らないが、腐乱系は現物はもちろん、映像だけでも私はかなりしんどい。
人によって、悪趣味にゾクゾクする快感と、生理的嫌悪感不快感の境界線は、微妙なようで明確に存在するように思う。
私は腐乱系がダメで、ホラー、スプラッタ系映画で唯一辛いと思ったのは『ネクロマンティック』だった。
なのに、活字だと苦痛は無くて、ゾクゾク身も凍りつく読書の快感に、おもいっきり浸ることもできる。
不思議なものだ。
まあともかく、中年で肥満で下品な最悪ブスの腐乱死体描写に耐性が無さそうな方は、絶対読まない方がいいですよ。
ついでに単行本『ミサイルマン』について一言。
文庫本の並び順は知らないが、単行本では『テロルの創世』が一発目に置かれていて、ちょっと首をかしげる。
というのは、この作品だけ、少年層向け文体で書かれているからである。
(そしてこれは平山氏においては極めて異例の文体である、多分。)
立ち読みや試し読みで最初のこの作品が読まれ、ふ~ん、平山ってのは、こんなもんか、とか早とちりをされてもいいのだろうか?
それともしてほしいのか?
…さすがにそれは無いと信じたい。それじゃ或る意味、『ミサイルマン』の自販機の話並の悪徳商法だし。
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