『夢たまご』 半村良

『夢たまご』 半村良
 (『能登怪異譚』半村良 集英社文庫 所収)

 ―― 「夢たまごいうたら夢たまごや。これ食たら夢みるがやぞ。ほれ」 ――

 『能登怪異譚』のお気に入り、三つめがこれ。
 やはりこの短編集の作品は、理路整然と説明がつく話より、ぼやけた不条理系の話の方が良いなあと思う。
 この作品も、主人公に何がおき、どういう人生を歩んだのか、考えだすとよく分からない感じがあるが、それも味わいのうち。
 
 しかしこの作品の恐怖のキモは、『仁助と甚八』と違ってそんな不思議展開にあるわけではない。
 最後の2ページで明かされる真相の面白さと恐ろしさ。そして冷酷無比な最後の1行。
 厭な余韻が残る怖さだ。タイトルは可愛いのに。

 古典落語のあの噺のオチと全く同じではないか、とも思うが、まあ、この形式のオチには普遍的な怖さがあるのだろう、ということで。
 普遍的な怖さとは、自分の全存在を観察されコントロールされるという、実存的な恐怖/不快/不安感である。
 そしてこれは、牧野修作品でもしばしば用いられるテーマである。