『ランチュウの誕生』 牧野修

『ランチュウの誕生』 牧野修
 (『異形コレクションⅩⅩⅩⅥ 進化論』井上雅彦監修 光文社文庫 所収)

 ―― 祖父は網にいくつかのランチュウを捕えると、二つのバケツに選り分けた。 ――

 現在のところ、短編集未収録作品。
 胸糞悪さ、厭さの極北を味わいたいなら、これだ!ってぐらいの快作である。
 内容やテーマについては何を書いてもネタバレになりそうなので控えるが、勧善懲悪という安楽椅子に少しでも未練がある人にはお勧めできない、とだけは言わねばならない。

 普通に起承転結をしない変則形式で、ショートショートに近いかもしれない。
 前半淡々と出来事描写、最後に真相説明して終わり、だと本当にショートショートだが、この作品は最後に、話全体を踏まえた感動シーンをチラリと見せる。
 この短いパートによって、作品は短編小説としての体を成すし、厭な味わいも倍増する。

 痛い、怖い、だけの小説は楽しいばかりだけど、命や人生を弄ぶのは、やはり重い。
 (もちろん、あらゆる殺人シーンは命を弄んでいるんだけど、それをどれだけ強調するかという問題です)
 その重さを逆利用して、いかにして良きエンタメとしてまとめあげるか。書く者の力量が試される局面だと思う。

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