『ルームシェアの怪』 三津田信三

『ルームシェアの怪』 三津田信三
 (『ついてくるもの』 講談社ノベルス 所収)

 ―― ところが、一階にもどって食事の支度をはじめると、再び野々村の気配がした。それも部屋の中を歩いているような物音が、天井から伝わってくる。 ――

 短編集表題作の『ついてくるもの』の紹介では、ちょっと変な褒め方をした。
 ホラー本編の内容が優れているというより、前書きでの作者のさりげない一言、しかも実は計算づくであるに違いない決定的な一言が、最後まで作品の恐怖の質感を支配している、みたいな論調で。

 でも、同じ短編集所収のこの『ルームシェアの怪』は、普通に内容が怖かった。
 内容といっても、筋立てが怖いというより、用いられた素材が怖かったのだ。
 本作も、作者の蒐集した話、っていう形式であり、ちゃんとしたホラーストーリーではない。

 だいたいこの作品、タイトルからして、ホラー短編小説のそれではない。完全に実話怪談系の、何の芸術性も無い即物的なタイトルだ。
 (ちなみに、本書最後の『椅人の如き座るもの』だけは、『人間椅子』や『家畜人ヤプー』を思い出させる、着想も見事な本格的な短編ストーリー。ただし、推理モノであってホラーではない。)

 そして、実話怪談系にありがちな傾向ではあるが、結局何だったんだ?さっぱり分からん、っていうオチの形式を、この作品も上手に使っている。
 とはいえ、全部有耶無耶にするんじゃなくて、いろいろ解明した後で(この流れはかなり面白い)、最後に「で、じゃあ結局あれは何だったんだ?」だけが綺麗に残る感じ。


 語り口のテクニックも巧いんだけど、でもやっぱり、私にとって怖かったのは、素材だ。
 それはズバリ「隣人の気配」。
 本作はそもそも、ルームシェアをするのは怖いよ、って話とはちょっと違う。

 だって、姿の見えぬ隣人の立てるあいまいな物音って、嫌ですよね。なんだか不安な想像ばかりを掻き立てて。

 どうなんだろう?人によっては全くピンとこないかな?
 狭いマンションにずっと暮らしてるからかもしれないけど、私はこれ、かなり生々しい怖さを感じます。