『おもひで女』 牧野修
(『異形コレクションⅩ 時間怪談』井上雅彦監修 廣済堂文庫、『忌まわしい匣(はこ)』集英社文庫 所収)
―― くちゃくちゃと音がするのは、女が何かを咀嚼しているからだ。だらしなく唇を開き、小さな白い歯を覗かせたまま女は顎を動かしている。 ――
『死せるイサクを糧として』や『ランチュウの誕生』が厭(いや)系牧野ホラー短編の最高傑作であるならば、『おもひで女』は牧野短編ホラーの最高傑作の一つだ。
……って、あれ?
ここまで書いて、ちょっと首を捻る私。
この『おもひで女』という作品は、厭系でもなければ、グロテスクアートのような幻想ホラーでもない。
理路整然としたすっきり綺麗な話の組み立てにはSFテイストを感じるが、自然科学とも心理学とも、この作品はほとんど関係がない。
もちろん、初出のお題である「時間怪談」というくくりに入れていいのだが、タイムスリップSFみたいな客観的な時間がテーマでもない。
この作品は、純然たるモンスターホラーであり、かつ、研ぎ澄まされた筋立ての、新しすぎる怪談だ。
"彼女"は、怪談の花形として華々しく登場する。
だが、暴れるわけでも火を吐くわけでもない。
ただつっ立ってこっちを見ているだけだ。
徐々に「距離」を詰めてくるだけだ。
「牧野短編ホラーの最高傑作の一つ」であるとは、つまり、純粋かつ単純に、最高レベルで怖いということだ。
彼女の信じがたい現われ方、迫り方が怖い。
彼女の外見の細かい描写の一つ一つが怖い。
そして内面が一切描かれないのが(この点がモンスターホラーであり怪談なのである)これまたとてつもなく怖い。
そんなことをダラダラ書いているうちにも、彼女は静かに迫ってくる。
どう考えても逃げ切ることができそうもない経路を、悠々歩みながら。
絶対に勝てない、絶対に逃げられない、絶対に助からない、そんな状況を驚くべき形で提示した、この作品のアイデアは本当に凄い。
そして、掛け値なしに最高に、怖い。
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