『八つ話会』 飯野文彦

『八つ話会』 飯野文彦
 (『変化〈へんげ〉』水木しげる監修 PHP文庫 所収)

 ―― 女子大生たちのみならず、私も息を飲んで牧村を見つめた。
 「話の組み合わせが、間違っていなかった証拠だ。つづけよう」 ――

 タイトルは「やつばなしえ」と読む。
 作中の説明によると、八つ話会とは、百物語的な怪談話の集いのことであり、江戸時代には或る実際的な危険性ゆえにお上から厳しく禁止され、現代では、その正式な作法はおろか、存在すら知られていない。
 興味を持った、現代に生きる主人公らが、闇に葬られた歴史を掘り起こして八つ話会を再現してみる、というのが、この作品の大筋である。
 文字通り八つの怪談を参加者が語り合うのだが、それぞれの話に、内容とテーマの縛りがある。出鱈目では何も起きない。だが正しいやり方で会を進めると……。

 さて、どうでしょうか?面白そうな短編だと思いませんか?
 実際、この作品、本当に面白い。少なくとも私はそう思う。
 こんなにもワクワクハラハラゾワゾワしながら最後まで楽しめるホラー短編は、なかなか希少である。
 失われた歴史の謎解きという魅力的なテーマ。
 怪談会というより怪異召喚儀式めいた、並々ならぬ緊迫感。
 そして、読者=怪談の聞き手=参加者となる、臨場感。
 同じ言葉を繰り返すばかりで阿呆のようだが、とにかく話の移り行きが、圧倒的に面白いのである。
 
 存分に楽しみつつ読み進んでゆく。八つ話会の話数も進み、ページ数が残り少なくなり、結末への興味が高まりつつも、反面、尻すぼみにしんみり終わりそうな予感も漂う。
 けれど、さにあらず。びっくりするようなクライマックスが、まだ、手ぐすね引いて読者を待っている。

 この作品についてはこれ以上私がどうのこうの書くべきではない。とにかく読んでみていただきたい。面白いから。