『ミミズからの伝言』 田中啓文
(『ミミズからの伝言』角川ホラー文庫 所収)
―― このミミズを飼うときは、きれいな心で接しなければならない ――
以前『オヤジノウミ』の時にも書いたが、田中啓文ホラーは特殊である。
いつもいつも、ふざけている。
もちろん、「ふざけてんじゃねえぞ!」と罵倒したいわけではない。
そうではなくて、作者が本当に、ふざけて書いていて、それはもちろん好ましい特徴である。
悪趣味の極北を目指す吐き気を催す奇想、アンチヒューマンな鬼畜展開、そして、魂の奥底から紡ぎ出される駄洒落。
やはり今回ご紹介する短編『ミミズからの伝言』でも、ときとして、不意を突いて湧き水のように駄洒落がほとばしる。
だが幸いにして(?)本作は、話の核心あるいはオチが駄洒落、という形式にはなっていない。
なので、最後まで読んだ挙句に肩すかしで土俵の外に放り出されたような感覚を味わう心配は無い。
(ちなみにこの短編集に収録されている他の短編では、鬼神の一太刀のごとくすさまじい駄洒落オチも味わうことができます。)
駄洒落が核心ではない、とすれば、残るのは純然たる悪趣味奇想、ということになる。
ホラーシチュエーションに対する恐怖感といっしょで、グロシーンに対する生理的嫌悪感の感じ方も、十人十色人それぞれだろう。
今回の場合、何万匹ものミミズの群れ、に対して、どうってことない、と思える人には、物足りない作品ということになるやもしれない。
しかし少なくとも、私にとっては、なかなかきつい絵である。
きつい、と言えば、同短編集の大トリを飾るのが、伝奇ホラーの体裁を借りた異形の短編、その名も『糞臭の村』。
(それにしても、なんて酷いタイトルなんだ……)
これは、タイトルから想像される内容そのまんまの、読んでいる途中で風呂に駆け込み全身をゴシゴシ洗いたい衝動に駆られるような、まあなんというかそういう身も蓋もないナスティストーリーである。
例に漏れず馬鹿馬鹿しい悪趣味作品としては滅法面白いのだが、ホラーとしての凄さ、というこの場の唯一にして絶対の基準によって、私は今回、表題作『ミミズからの伝言』の方を採ることにした。
いつでもサービス精神旺盛な田中敬文悪趣味ホラーは、毎度常に、精緻な描写の限りを尽くしてとっておきのクライマックスシーンを披露してくれる。
私は、本作のクライマックスで、なぜか不思議な<美しさ>を感じた記憶が残っていて、そのことがずっと気になっていた。
電車内のシーンに続く、「R駅のホーム」の場面である。
あまりにも気持ち悪すぎて変な脳内物質が出てたんだろうか? などと首を捻りながら再読したが、あらためて、美しい場面だと感じた。
ショッキングかつ幻想的な、素晴らしいアイデアだ。
非常に純粋な悪夢が描き出されている感じ、というか。
きっと、シーン全体がモノトーン(つまりミミズ色)で統一されているのも、(私が勝手に感じた)映像的な美しさの一因であると思う。
そして、結末の、この作者には比較的珍しい救いの無さ、後味の悪さ。つまり、厭さ。
これもまた、良い感じだ。
いつものふざけた話だろうとタカを括って読んでいたら、しっとりと厭な終わり方で、不意討ち的に驚かされただけなのかもしれないが。
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牡蠣喰う客 (日曜日, 11 11月 2018 17:19)
田中啓文は落語好きだから、多少はね?
しかし「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー」とか「オヤジノウミ」とか、気色悪いのに美味そう、それが田中啓文の魅力だね