『罪と罰の機械』 牧野修

『罪と罰の機械』 牧野修

 (『異形コレクションⅡ 侵略!』井上雅彦監修 廣済堂文庫、『忌まわしい匣』牧野修 集英社文庫 所収)

 ―― この世界にはあまりにも罪人が多すぎたのだ。まるで地獄ででもあるかのように。 ――



 この作品には、杉崎が一番「好き」な牧野キャラクターが登場する。
 (一番強烈なキャラクターなら、おもひで女と即答するべきなのかもしれないが、あれは怖すぎて愛せない…。)

 そのキャラクターとは、<彼>、すなわち<罪と罰の機械>ではない。
 <彼>の異形の口腔から次々に吐き出される、人面蜥蜴なのであります。

 描写をまとめると、
  濡れた、地肌の見える薄い頭髪、垂れた目のにやけた笑いを浮かべた、中年男の顔を持ち、
  その頭部はテニスボールほどの大きさで、不釣り合いに小さい、灰色の蜥蜴の躰がついている
 のだという。

 初めてこの作品を読んだ頃、この造形美に、私はいたく感動したものだった。
 醜悪の極みを折詰にしたような外見描写(似た風貌の中年男性の皆様お許しください)が一周廻ってコミカルにすら思えてくる。
 そんな人面蜥蜴が、<彼>の口から何百も飛び出してきて、せっせと或るお仕事に従事する。

 この小説は、内容もさることながらラストシーンが私、本当に好きでしかたがない。
 人面蜥蜴が再登場し話を締めくくる形になるのだが、一体何なんだろうか、この胸を締めつけられる切ない感情は?
 愛、と呼んでもよいのだろう。萌え、と呼んでもよいのだろう。
 (そしてどちらも、正確には、微妙に違うのだろう。)
 とにもかくにも、マキノ美学に波長が合う読者ならば、静かな優しい感動に包まれることうけあいの名エンディングである。

 発表されたのが異形コレクションの第二巻なわけで、相当古い作品ではある。
 牧野修のグロテスク美を追求するホラー短編は、この頃、既に、この高みに到達していたということなのだろう。