新作『8階の幽霊、あるいは、指』を完成させました。
1万字を越えなかったので当サイトで無料公開です。お読みいただけると嬉しいです。
これ、エレベーターだけが舞台の怪談連作というシバリで書き始めてみたんです。
頭を捻ればいろいろとアイデアは出てくるもので、ああでもないこうでもないと話の流れをいじくり、切り貼りし、比較的楽しく執筆作業を頑張れました。
しかし、作業の間、ずっと杉崎の心の隅で、小さな不安の黒い影がのたくっておりました。
これは……何だ? 俺は、何か気がかりを抱え込んでいるらしい……。 だが、何だ?
完成間近の頃には、公表してはならない作品のような不吉な気分にさえなりました。
何か、ヤバい。そんな気がする。でも、何がヤバいんだ?
それがどうしても分からなくて、しばらく発表に踏み切るのをためらうほどでした。
発表すると作者が不幸を被る、呪いの小説?…何それ???
ところが。
さきほど、あっ…!という間抜けな声とともに、思い出してしまいました。
不安の種は、呪いでも因縁でもありませんでした。
そうではなく、<盗作><パクリ><アイデア拝借>という、表現者としては現実的に生々しい、そして最悪な疑惑の影が、ずっとチラついていただけだったのでした。
平山夢明『怖い本①』ハルキ文庫
敬愛する平山先生の実話怪談本、これに収録の「十九話 うしろの正面」
これが、深夜のエレベーターに幽霊が出る、って話だったんですね。
そもそもこの作品を読んだから、自分でもエレベーター怪談を書こうって気になって、いろいろ話を膨らませたのでした。
そのことを、すっかり失念していたのです。馬鹿にもほどがありますね。
ドキドキしながら、どんな話だったかと読み直しましたよ。
あんまりにも同じ話だったら、全面的に改稿か、あるいはボツにせねば、と。
結局ですね、乗ってるエレベーターが深夜にボタン押してない階で停まる、そしてスーッと扉が開く……って始まり方は、同じでした。
いや、同じでした、じゃねえよ、お前がパクったってことだろが! ってことに他ならないのですが。
パクろうとしてパクったんじゃなくて、書いてみたら気づかないうちに同じになってたってことなんですが。
言い訳がましいですね。
でもですね、幸いにして、その後の幽霊の登場の仕方とか、さらにその後の展開とかは、元ネタと全く違ってくるんです。
だから、全体としてはパクリではない、と自分では思いたい、そんな感じです。
そういう、胡散臭い、志の低い、情けない事情を抱えた作品であることも白状しつつ、それでも愉しんで読んでいただければ、杉崎にとってこれ以上の幸せはございません。あしからず。
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