作品タイトルに副題を付けると、告知であるとかファイル名であるとか、いろんなところにこの長いタイトルを書かねばならず、ああ面倒だ、こんなことなら……、と発表後後悔することしきりな杉崎です。
それはさておき、この作品、一年数カ月ぶりに発表する、しかも長めの短編ということで、変に力んでしまったことは否定できない。
原型は、実際に暑かったこの2016年の7月8月に毎日ちょっとずつ書き留めていた、幻想日記的な短文である。
本当に酷暑とアルコールと生活苦に頭をやられていたのだ、きっと。
暑すぎて子供が溶けるだとか、老人が干からびるだとか、どうやって湧き出てきた発想なのか自分でも思い出せない。
まあとにかく、ホラー、幻想奇想、前衛といったジャンルの壁を悠々越えて跳梁跋扈するこの狂人日記の一群。
書き溜めた本人が、ちょっと手が付けられない。
これを何とかして一つのストーリーにまとめあげることは可能だろうか? どういう形式の小説になるだろうか?
すこし悩んだが、結局、杉崎の妄想と幻想と錯乱の日々が描かれているのである。
だから、主人公は杉崎、舞台も大体杉崎の生活環境そのまま、でいいじゃないかという結論に。
かくして、エピソードの順番を並べ替え、繋ぎ合わせ、ストーリーとしてはフィクションであるものの、こんな風な杉崎自身のアル中日記的な物語となリ果てました。
P.K.ディックの『ヴァリス』みたいな形式にしたら面白いかも、という目論見もあった。
この作品、最初に主人公はディック本人であると宣言しながら、真面目に変なこと言い出したり、超常現象に巻き込まれたり、あげくの果てにはシレッとディック本人が主人公とは別に登場したり……。
なんというか、メタな意味で、かなりスリリングな作品なのである。
ディックファンならお分りでしょうが、読んでると、実際に当時ヤク中だったらしいディックの頭は大丈夫なのか? 本当に狂ったまま書いているのか?
それともそうミスリードすることで読者を翻弄しているだけなのか?
と、何度も不安になる瞬間がある。
一方、杉崎が、この『幻野としての杉並』に書かれた通りの妄想と幻覚の世界に落ち込んでいる、というのはさすがに事実でない。
これだけは一応言っとかないと、まずいでしょう。
多分私の頭はまだ大丈夫です。多分。
が、ともかく、作者が主人公として危うい狂気の世界を彷徨う、そんな作品もたまにはよかろうと思いまして。
内容についての反省点ですが、実際に受けたご指摘。
「怪異現象が起きたと思えば杉崎がひたすら酒飲んでる場面が続き、最後も杉崎が盛大に死ぬスプラッタ展開も無いし……(何を期待してるんですか!)。
全体として怪奇要素と杉崎日記的要素が混じってて散漫で面白くない」とこんな感じ。
言われてみれば全くその通りだと思う。
自分では、杉崎の心象風景として一つのまとまりというか統一感を感じながら書いていた。
が、読んでいただいてる側からすれば、そもそも話の枠組みや趣旨が分からなくて、かなり「読みにくい」ものだったかもしれない。すいませんでした。
多分ホラーファンより、アル中の人が読んだ方が面白いんだろうなあ、などとも思うが、作者の方で読者を選ぶような発言をしたら終りなので、まあそれはともかく。
あと、結末部がしょぼい、面白くない、というご指摘について。
自分としては、ドラマチックに終わらせるのでなく、杉崎はかくしてまた次の週の週末も、次の次も、今回と全く同じ、酒びたりの腐った悪夢の世界に落ち込むのです、という終わらない地獄エンドのつもりでした。
実際に杉崎は、今も、今週末も、<幻野としての杉並>に生きております。
今もサイゼリアで400円(!)の500mlデカンタの赤ワインを一気に飲み干してご満悦であります。
だから、実は続編なんていくらでも永久に書けるのですが……。
この作風一本になっちゃうと、作家として多分面白くない、読むのがしんどいだけの人になっちゃうように思うので、今後はそう頻繁にはこの形式では書かないと思います。
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