最初のアイデア:
怒るAに向かって、Bが、「Cを必ず連れてきます」と約束する。
A「何言ってんだこの詐欺師。だってCはもういないに決まってるじゃないか」
ところが、Aの前にCが現われる。
A「なんでCがここに? 無事だったのか? 死んだと思ってたが」
Cが口を開く。「ネ? Cヲココニツレテキマシタヨ」とBの口調で言う。
***
『ホーチミンから来た老人』の自作自解では、最初のアイデアに後から目鼻を付けようとして迷走した、と書きました。
一方この『盗国譚』はすんなりいった。
『ホーチミンから来た老人』は完成までに2週間かかったが、この『盗国譚』は実質、数日だった。
両作品とも、アイデア一発からの膨らませ型だったが、稀にうまくいくこともある。
最初のアイデアを書き付け、しばらく放置していると、Bとは誰か? という大問題に解が降ってきた。
「“魔人”だ」と。
これで半分決着はついた。
つまり山田風太郎の忍法帖形式だ。
山田風太郎の忍者は、何でもありである。
彼らは、そして彼女らは、想像力の極限のような「術」を使いまくる。
ここで重要なのは、カラクリについて解説が行われない、ということ。
「そういう術を操る、恐るべき使い手なのだ」で終わり。素晴らしい。文学史上の大発明である。
さすがにこれは現代劇のリアルなクライムストーリーでは無理だ。ふざけんなよ、と叱られる。
時代劇かファンタジーしかない。しかしこんな一発ネタのためにファンタジー世界を構築するのはしんどい。
だから一幕物の時代劇だ。舞台は? 日本だと、さすがに山田風太郎作品のパクリみたいだから、海外だ。
というわけで舞台は古代西洋史のどこかにしよう、と決まる。ここまで数分の脳内作業だった。
物語を実際に最後まで書き切っても、キャラクター名は仮のままだった。
世界史上のどこにこの物語を位置づけるか、後でゆっくり考えるつもりだった。架空の国だと弱い気がしていた。
全て書き終えてから、ウィキペディアやらなにやらで、答えを探す。忘れかけていた世界史の知識が蘇ってきて楽しい。
そして、あの古代の大帝国の大王の名前に辿り着く。ああこれだ。これが答えだ。これでよし。
最後まで「どこの国の誰の物語なのか」という骨組みが決まっていないまま書いていた。
だが、着地点は決まっていた。
出来るだけ壮大な馬鹿馬鹿しい話にするということ、がそれ。
なので、楽しいばかりの執筆作業だった。
***
ここまで、めちゃくちゃ偉そうに制作過程を書きつづったが、そこまでこの作品に自信がある、という趣旨ではありません。
珍しく、スルスルッと書けて気持ち良かった、とそのことを書きたかっただけ。
実際、この作品については、悔しい部分もありまして。
読んでいただいた友人に「途中でオチが読めちゃったよー」と言われてしまったのでした。
オチ?……オチ、かあ……、と言葉に詰まる私。
私としては、話のオチで面白がらせるのが主眼でなく、ただ綺麗に話を切り上げただけのつもりで。
書きたかったのは、最初のアイデアである、魔人の挙動。
というか、セリフ一つだけだった。
魔人がこっそり王子にすり替わり暗躍するのでは、まだまだここから長い話が続かねばならない。
だが、なりすますのではなく、あからさまに術を使ったことをその場の全員に知らせる。
つまり、いきなり宣戦布告をし、セリフ一発で一気に逆転する。このダイナミズムを描きたかったのでした。
……だからといってオチを疎かにしていい言い訳にはなりませんね。
最後まで気を抜かず、もう一捻りするべきだったと反省してます。
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