自作自解、新作の超短編10本分です


『妻の夢』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 オチを二段階にするという試み。
 内容がしょうもないという自覚があったのか、書いている時、できるだけ短くしようと心がけていた憶えがある。
 でも今思うと、こういうのは、もう少しだけ長い方が良かったのかもしれない。

「また夢オチですか!?」とお叱りを受けた作品でもある。
 今後は、生涯であと一回だけ、ここぞという時にまで決して、夢オチは使わないと誓います。


『白い箱』 [奇想・SF小説集]
 
 最初のイメージは、本当にタイトル通り。
 不思議な白い箱があってそこから黒い影が打ち上げ花火みたいに飛び出して、その黒い影が落下した家には不幸が起きる、と。

 これをどんなストーリーに組み込むか、とちょっと考えてこんな形式になりました。
 が、これが最良であったという気はしていない。この形式である必然性もない。何より安易すぎる。

 ろくでもないクズのおっさん、というのがキャラとして好きで、だから久しぶりに存分に活躍させたかったのですが、ただ喋ってるだけだし。

 似た感じで、社会不適合気味の兄ちゃんが喋り倒す『是非もなし』という作品をkindleで発表させていただいたこともある。
 あっちは、オチで、会話調での実質一人語り形式にちゃんと必然性を示したつもりです。 


『心を一つに』 [奇想・SF小説集]

 茹でガエル、とでも言うのか、状況は悪化していてみんなそれに気づいているのに誰もなんとなく声を上げない。
 破滅の時はもうすぐそこなのに、それでも誰も、なんとなく、声を上げることができない。
 そういう気持ち悪さを、サラッと短く書いてみたくなったのです。

 もっとも、そもそものアイデアは、実際にエレベーターに乗ってて、
「もしも、満員ブザーが壊れてたら怖いなあ、どうなるんだろうなあ」
 と考えた、ただそれだけです。


『へし折る』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 最初のアイデアとしては、想像の中で、あるいは夢の中で、不思議な白い棒を、考え無しに折ってしまう。
 実はその棒は、自分の生命、存在、あるいは運命の根幹をなす何かで、折ったら確実に死ぬ、そんな棒。
 他人には絶対分からない死因で、しかも自業自得で死ぬのって嫌だなあ、とそんな感じ。

 あくまでも、首の骨とかじゃなくて、抽象的、象徴的な何かです。 

 この作品は夢オチではないものの、杉崎は話に、安易に夢や幻覚を使い過ぎる傾向があることは間違いなく、自重しようと思っています。


『お前やな』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 クライマックスで飛び出す101号室のおばさんのセリフ、これのインパクトだけが最初にあった。
 このセリフを引き出すために後から舞台設定と状況を整えただけ。
 だからオチもありません。何かあった方が良かったのでしょうが。

 読んでもらった、とある友人(病院勤務)の言葉。
「こんな変なこと言う患者さん、実際いっぱいいるからなあ。これだけじゃ小説にならんでしょ」

 ……そりゃそうかもしれん、と納得しかける私。
 でも、実際にそうだとしても、いきなり言われたら、充分怖くて面白くて味わい深い発言・思考であろう、と。
 そういう計算で、公表したままにしてあります。
 精神を病んだキャラクターの小説上での取り扱いは、何とも難しいのですが。


『呻(うめ)き続ける人は座して』 [奇想・SF小説集]

 最初のアイデアというかイメージが、内容の全てになっている。
 なので、種明かしをするようなことは一切無いのですが、まあそこが問題だということ。
 つまり、これはただのアイデアノートの提示であり、物語の体(てい)を為してない、と批判されれば、その通りだということです。

 たしかに、この手の変な思いつきや変なイメージっていうのは、私のアイデアメモに沢山眠っている。
 いつか物語として芽吹き大きく成長するのを待っている、ストーリーの種、卵みたいなものだ。

 その中で、この『呻(うめ)き続ける人は座して』については、他のアイデアとちょっと違う感じがあった。
 なんか大きな話になりそうで、でも全然話が見えてこない、無精卵みたいな、というか。
 大事にとっといても未来がないだろ、という気がしてしょうがなくて。

 そういうわけでこのままの形で公開しました。
 闇に葬らなかったのは、それでも捨てるに惜しい、個人的に気に入っているイメージだったということ。

 もちろん、数年後にでも、明日にでも、このイメージを活かせる大きなストーリーを思いついたら、再利用してみる気はあります。  



『誰かがあそこで寝ている』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 自分の家でもオフィスでもいいけど、ずっと何年も触ったことがない、中がどうなってんだか誰もはっきりしない、そんな小さな空間。
 ロッカーの最上段とか、庭の物置小屋とか。
 そこに、何モノかの気配だけが濃厚にある。
 なんとなく気になる。
 だけどなぜか、なんとなく、確認してみる気も起きなくて、気がかりをずっと放置したまま今に至る。
 意を決して、調べてみたとしても無駄。だってそれは「何モノか」でしかなく、それ以上何も分かるはずもないのだから。

 と、最初のイメージを書いたら、ほとんど作品の粗筋と変わらなくなってしまった。

 子供の頃、実家に二段ベッドがあって、上段は、フロアからは見えにくく薄暗く天井もすぐそこで、子供心に素敵な異空間だった。
 そうか。タイトルの『誰か』って私のことだったんだな、と、今気付きました。


『箪笥(たんす)階段』 [幻想・実験小説集]

 レビューで紹介したこともある、半村良『箪笥』とは、ほとんど何の関係も無い話。
 もちろん、この大傑作を忘れるわけもなく、ちゃんと念頭にありましたが。

 最初のアイデアは、階段の踊り場にポツンと箪笥が置いてある。そういうシュールな映像のみ。
 でもこれだけじゃ話にならない。
 どうしよう、としばし考え、のび太の学習机の引き出し引いたらタイムマシン、みたいに、箪笥の引き出し引いたらそこにまた階段、というアイデアが浮かぶ。

 なんかすごくハイになって一気に話を書いてしまいました。
 ただ階段が無数に分岐し、果てしなく続く、そんな空間に迷い込む、というのだと、絵的には幻想的だけど、話としては難しい。
 なんでかというと、結局、山で遭難する話と大差なくなってしまうから。

 それに対して、四段の箪笥で四択の分岐が異次元的に発生するのって、かなり魅力的な道具立てなのではないか、と。

 とはいえ、これはもっともっと長い話にするべきアイデアだったのかなあ、と反省してます。
 お読みいただいた作品だと、なんだか話を圧縮し過ぎだし、説明も下手で分かりにくいし。


『罠』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 街中でも猫とか、山の中でも小動物やなんか、かなりのスピードで一直線に走ってることがあって、それに突然出っくわすとビックリする。
 そんな野生動物が走ってる最中に、ズボッと落とし穴に落ちて、殺される。
 しばらくすると穴から黒い影のような怨念が這い出してきて、「生前と同じスピードで」山道を駆け下りてゆく。
 これが最初のイメージ。

 なんかスピード感を保ちたかったからなのか、後半から結末まで非常に短い字数で書いて、自分でも気に入っていたのですが。
 読んでくれた知人曰く「最後よく分からなかった」と。
 むむむ……。
 読者として自分でも経験ありますが、難解、不親切で読者に再読、再再読を強いるようでは、スピード感も何もあったもんじゃないですね。
 こういうさじ加減、本当に難しい。


『悩み事』 [怪奇・恐怖・暴力小説集]

 得体の知れない者が「後ろ通りまーす」と声をかけてくる。
 だけど状況的に絶対振り向けない。得体の知れない者の生々しい気配だけが、凍りつく自分のすぐ後ろを通り抜けていく。
 ただ、こういう状況を描きたかっただけ。

 話を練るにあたって、後ろを通るモノ、と、主人公が後ろを振り向けない事情とを、うまくリンクさせられたのは良かった。

 タイトルとオチについては、作中で語り手である主人公にメタ発言をさせたりもしているが、ちょっと事情がある。
 絶対に「オチが読めた!」と言わせないオチにする、というのがこの作品の個人的なテーマだったので。
(つまり直前に別作品についてそう言われ、奮起したということです)

「オチが読めた」と言わせない、というのは、本来ならば、読者の予想の上をゆく素晴らしい意外性のあるオチを創り出すこと、に決まってますが。

 杉崎はそのような苦行は早々に放棄して、肩透かしオチを選択しました。
 志が低くてすいません。