自作自解『大東京共和国の一日』


 2012年12月にkindleに発表した作品です。
 今回当サイトで改めて無料公開版として掲載するに当たり、大量に改行を加えました。
 それ以外、文章そのものは一切修正も加筆もしていません。

 あらためて自分で読み直すたび思うことは、ところどころ場面が飛び飛びになっている印象があり、もうちょっと長く分厚く書くべきだった、という後悔。
 今でも時々、ストーリーは一切いじらず、描写だけを書き加えて1.5倍ぐらいの長さに書き直したい衝動にかられるのだが……。
 一方で、これ以上詳しく物語っても設定の無理さが顕わになるだけなので、これぐらいの駆け足でちょうどいいんだよ、と慰めて(?)くださった読者もいた。

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 この作品のkindle版は、有料版ということもあり、総統の演説の元ネタCDについてアーティスト名、タイトルも記載した筆者註を文末につけていた。
 今回は無料公開版なので、その断り書き部分を省いた。
 総統の演説内容は完全に杉崎のオリジナルです。あそこで描かれた状況、具体的には演説シーンの状況には、元のアイデアが存在する、というだけのことです。

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 分量としては短いわりに、いくつものアイデアや細かいメモのパッチワークとして出来上がった作品だった。
 一番最初のアイデアとしてあったのは、飛び降り死体のパーツの数が合わない、という奇妙な状況。

 なんで? という理由づけをするに当たって、単なる偽装殺人じゃ弱い、大掛かりな組織犯罪でもまだ弱い。
 いっそ「この国ではこれが当たり前なんですよ」とシレッと言われるのが一番スケールでかくて怖いのでは。
 多分これが、「大東京共和国」という架空の国家が私の頭の中で誕生した経緯だったように記憶している。
 
 総統の演説、天国のドアの小噺、細かい会話のやりとりなんかは、元々は別々にメモっておいてキープしてたものだった。
 それをこの作品執筆当時、これも使えるな、これもここに入れられるな、とツギハギしてるうちに、ある程度の分量がある一本のストーリーの一丁上がり、となった。
 もちろん無理矢理でっち上げたつもりはないですが、実は冒頭から一行一行丁寧に書き進めていった作品ではない、ということです。

 完成直後は、なんか頭の良い楽チンな小説製造法を発明したかのようないい気になってたかもしれないが、実はこれではうまくいかない、と学んだのもこの作品があってこそだった。
 もちろん最初から最後までガチガチに粗筋を作り、その通りの完成稿に辿り着く作品など、今でも少ない。
 だけど、別々に存在していた複数の文章の繋ぎ合わせ、という手法には、相当慎重になった。
 なんか、話の展開が不自然になるし、もっとよくないのは、作品に違うムードが混入しちゃうという点だと思います。

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 発表後、褒めていただいたのは、杉崎の作品にしては珍しく(初めて?)キャラが立っている、という点でした。
 いろんな文体や形式を模索していた時期の作品で、ライト・ハードボイルドとでもいえばいいのか、ちょっと気取った会話と誇張気味のキャラクターを導入してみた作品だったので、上手くいったということなのだろうと思っている。

 じゃあ、そう思うなら、同じ文体でどんどん作品書けばいいじゃん、ってことになる。
 だが、この作品を書いて以後、何十本も短篇を書いてはみたが、不思議と、これと同じ雰囲気で書いた作品は一つもない。
 ずっと書いてみようと思いながら先延ばしになっている。
 本質的に、軽快軽妙な文章というものが苦手なのだろう。文筆修行中の身の上なので、苦手ならなおさら挑戦しなきゃいけないはずなのですが。