自作自解『解・虫』


 2013年8月にkindleにて発表。
 今回の無料公開版では、改行を入れた以外、手直しはしていない。

 いきなりホラー小説ではなくホラー漫画の話になるが、私は日野日出志先生の『地獄変』のような作品を書きたいとずっと思っていた。
 長年の夢の一つであり、宿願の一つである。

 『地獄変』とは、御存じの通り、ホラー漫画家日野日出志が、自らのルーツ三代について最初から最後までとてつもないテンションで描き切った大傑作である。
 この作品さえ読めば日野日出志作品の凄さの全てが分かる、ってぐらい、日野日出志丸出しである。
 こんな親不孝、先祖不孝な漫画もそうそう無いだろう。自分の一族の歴史を、100%日野日出志色で塗りたくっているのである。

 私もこの気概を見習って、自分のルーツ、一族の話ではないが、故郷への複雑な想いを、『懶惰なる山河、山々の襞』という長編に込めてみたい。
 『懶惰なる山河、山々の襞』を、和風で土俗的なクトゥルフ的ホラーとして書いていきたいと考えている。
 もちろん、諸星大二郎漫画をはじめ、先人は沢山いるので、何ら新しいアイデアではない。
 ただ、私はこのアイデアを、自分の貧しい故郷への想いと結び付けたい。
 裏日本、平地に乏しい、海岸線のすぐ近くに山々がきりたつ地形。少数の人間が、山と山の間の襞のような隙間に貧しい集落を作って暮らす。
 そこでは、自然は、豊穣の神ですらない。そこに人間が生きつづけていることにすら、頓着せず、気づいていない。
 私の故郷のイメージは、人間を育んだり敵対したりする自然、そして超自然、というものではない。
 かの地では、自然は、そして、超自然は、人間など歯牙に掛けない。そこにいるとも気づかず踏み潰す。だからクトゥルフなのだ。

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 そういう着想で私は『懶惰なる山河、山々の襞』を書き始めた。
 初めてぶっちゃけさせてもらうが、そもそもこの作品、終わる気配がない。杉崎の中で。
 ゆっくりゆっくり、何年も、何十年かけてでも、書き進めていきたい、そういう作品です。

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 序章と第二章は、無料作品としてこのサイトで公開させていただいた。
 一方、今回無料公開版をアップロードした『第一章 解・虫』だけは、kindle版で公開させていただいている。
 全体を書き始めた数年前は、無料公開版と有料公開版を交互にしたら面白いかもな、とか思っていた気もするが、今はそんな確固たる計画はない。
 いつ書くやら分からない第三章がどういう形での発表になるやら、作者本人も決めてもいない状態です。

 でもまあとにかく、今回これでやっと、序章、第一章、第二章がすべて無料版で通読できる形にさせていただきました。
 通して読んでいただければ嬉しいです。

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 (やっと)『解・虫』について。
 独立した短編としても読んでいただけるように描いたつもりだが、大長編の第一章として、今後につながる、というと聞こえはいいが、まあそんな感じのゆるい終わり方になっている。
 続く第二章の終わり方も同様なので、つまんない思いをさせてたら申し訳ありません。
 
 『解・虫』を書いていた時の目標としては、杉崎的に珍しい、ちゃんとしたスクリーミングクイーンものを書きたい、というのがありました。
 つまり、ただひたすら悲鳴を上げながら逃げ回るだけの、可哀そうな美女を中心に据えたかった、とそういうことです。
 ストーリーの題材としての、死なないカニ、については、多分、映画『バタリアン』の、真っ二つになった犬の解剖死体がいきなり動き出すっていうシーンが念頭にあったように思う。

 だが、今になって思うと、これまたホラー漫画であるが伊藤潤二『ギョ』のイメージと、言い訳のしようもなく被りまくっている。
 その点は思い出すたび少し凹みます。
 いつの日か第三章で挽回したいと思っています。