まさかあの馬鹿馬鹿しい作品の続編を書くことになるとは思っていなかった。
仕事として原稿を依頼されているわけではない杉崎は、ふとした思いつきで自由気ままに書いている。
なので、何をきっかけに新作に取り組みだすやら、自分でもよく分からないことが多い。
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高い山から下りてきたシェルパがチベットの市街地を歩いている。
山の中腹で死んだ登山家の遺体を麻袋に入れ、担いで下ろしてきたのだ。
さらに驚くべきことに、その死体は、こちらに向かって話しかけてくるのだ……
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以上は、友人N君から教えてもらった怪談。
私のオリジナルなアイデアではない。
現地にエスニック雑貨を買い出しに行ったN君の知人の体験談(だとその知人が主張した話)らしい。
単純に話の内容が怖い、というより、そのような変な話を真剣に語る人がいる、という状況に底知れぬ不気味さを感じた。
(N君が変だと言っているのではなく、その知人なる人の話が変だ、と言っているのですよ、念のため。)
最初は、奇怪“過ぎる”話、それを真実だと言い張ること自体が異常であるような話、をめぐるストーリーを考えてみた。
でもこれは全く違う題材でも可能である。大事にしまっておこう、と。
むしろ、この素っ頓狂な題材はそのまま生かす方が楽しい気がして、そこで、何年も前に書いた前衛超短編『ヒルトンホテル』の続編という形にすれば面白いのでは、とひらめき、こういう形になりました。
白状しますと、作品後半のアイデアもN君の提案です。
私が仕事したのは、全体の流れとディテールを考えたことだけ。
たまには、他人からいただいたアイデアを文章化し小説化するという作業も楽しいもんでした。
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