自作自解『大賢帝ディオゲネス』

 
2013年6月、kindleにて発表。
改行をいっぱい加えた以外、加筆はしていません。

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 この作品については、最初のアイデアはこんなだったのがどんどん脱線していって、とかそういう「秘話」はない。
 <東京都を魔人が支配し、勝手気ままに大改革を強行し始める>
 普通にこれが最初から原案としてあって、そのまま話を膨らませただけである。

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 ただ、書き始めるに当たって誰を主人公にしようかな、という楽しい迷いがあったのは憶えている。
 ネットサーフィンしたり本棚の本をひっくり返したりしながら、わりとすぐに古代ギリシアの哲学者ディオゲネスが適任であると決定した。

 念頭にあったのはニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』だった。
 別に私はニーチェの専門家でもファンでもないし、内容だってあまり憶えていない。
 が、ニーチェの、れっきとした歴史上の人物であるツァラトゥストラ(ゾロアスター)を借りてきて史実にない言動をとらせる、というその著述スタイルがあまりにも面白いと思っていたので、その手法を真似というか参考にさせていただいたのでした。


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 「タイトル、『大賢帝スギサキ』でよかったんじゃないですか」
 そんなことを言われたことがある。
 苦笑せざるをえなかったが、そんな恥ずかしいタイトルをつける勇気はない。

 もっともこの小説は、主人公の名を借りて杉崎が言いたい放題おのれの思想をぶちまけた、というものではない。
 そういう意図を勘ぐられても、そこは徹底的に否定させていただきたい。
 私はそういう意図をモロ出しで小説を書いたことは、今のところ、一度もないつもりです。

 そもそもこの作品は、やりたい放題ふるまう独裁者の話であるとともに、面倒臭いことこの上ない上司に振り回される可哀そうな部下の物語でもある。
 むしろそっちを書きたかった部分も大きい。

 まあとにかく、主人公に据えたディオゲネスのことを、全肯定も全否定もしない、その点に気をつけて書き進めていたのは間違いない。

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 最終章まではかっちり粗筋をあらかじめ考えた上で書き上げ、その後で、一番最後の結末だけどうしようか数日頭を悩ませて、オチを決めた。
 面白いオチだったかどうかは、今でも疑問だが。
 執筆していた頃、話づくりに悩んだ記憶があまりない。なのに完成までに一カ月以上かかりました。