アンケート

 

 

 嫌な葉書だなあ……。
 宛名は間違いなく私で、送り主は小さな出版社のホラー雑誌の編集部。
 非常識ギリギリレベルの小さい字で、葉書の裏面にびっしりと文面が印刷されている。予算の問題もあるのだろう。

  [問一、あなたはどのような死に方が一番嫌ですか? 1:焼死 2:墜落死 3:……]
  [問二、あなたが過去一番痛い経験をしたのは、何時頃ですか? 1:未明~午前中 2:……」

 なんだこりゃ? どういう質問なんだ?
 まあたしかに、雑誌で「読者百人にきいてみた!」という企画を、仮に本当に訊いて回っているのだとしたら、このような葉書が実在するのも道理である。あんなものは全部編集者の創作かと思っていたが。

  [問六、ドアの向こうに暴漢がいるとします。あなたならどうしますか? 1:悲鳴を上げ助けを求める 2:立ち向かう 3:……]

 生々しいアンケートだな。しかし……。

  [問八、あなたが殺される場合、どちらが良いと思いますか? 1:ナイフによる刺殺 2:鈍器による撲殺 3:……]
  [問九、あなたが刺される場合、どの箇所が良いと思いますか? 1:胸部 2:腹部 3:背中 4:……]

 真面目に読み進んで、損をした気分だ。一言で言えば、酷いアンケートだ。
 あまり論理的ではない人間が作成したものなんだろう。
 本当なら、<設問B: 設問Aで1と答えた方に質問します>みたいな形で、設問を分岐させるべきだろう。
 このアンケートは、なんだか回答を一つの方向に強要しているかのようだ。あるいは、一本のストーリーをただ読まされているだけのような。

 返信せずに捨てようと思った。そしておや? と首を捻った。これは往復葉書ですらない。
 おいおい。回収する気もないのかよ。送り主のあまりのドジさに、思わず苦笑が込み上げる。
 丸めてゴミ箱に放り込む前に、一番最後の設問に目をやる。

  [問十、あなたは今、命を狙われていないと断言できますか?]

 選択肢が、無い。
 その時、私の部屋のドアノブが、ガチャリと鳴った。

 

(2015年 1月)