堆積


「意識活動を再開しました!」
 初めて聞いた言葉がそれだった。若い女性の、不意を突かれたようなうわずった高い声だった。
「意識活動を再開しました」
 次に聞いた言葉もそれだった。今度はやや低くて太い女性の声。

 同じ出来事が七回繰りかえされたが、不思議と記憶の混同はない。四回目の記憶はあの声、あの口調。六回目の記憶はあの声、あの口調。
 別に記憶力が異常に亢進しているわけでもないのだろう。なぜなら私の記憶は、現在これっきりしかないのだから。初めての声より前の記憶は失われてしまっているのだから。
 ああ、こんなことを考えている数秒のうちに、また意識がぼんやりしてくる。おそらくまた昏睡に引きずり込まれようとしている。
 また今回もだ……。自分が誰でどういう状況にあり、ここはどこで、前回の、あるいは最初の「意識活動を再開しました」からどれぐらいの時間が経ったのか、またしても確認することができなかった。

 何百回もこの同じ短い経験の記憶だけが、ひたすら堆積してゆく。その地層だけが、私の新たな全人生となる。そんな暗い予感がしてならない。

(2014年 3月)