大東京共和国の一日
北関東地方の盆地に傲然と居座る小国家、大東京共和国。この独裁国家では、全てが不愉快で、全てが狂っている。日本国から招聘された精神科医である「俺」は、憂鬱な朝をまた迎える。俺は一体いつまでこの国に滞在せねばならないのか。俺はいつまで人格破綻者の上司竹枝を、怒鳴りつけ殴り続けねばならないのか……。
阿呆和尚と鬼の手
鬼の手のミイラが伝わる古い山寺。青年は老住職から、寺に伝わる奇妙な鬼退治伝説を聞き出そうとする。
話のさ中、鬼の手から怨嗟の声が響く。青年は突如、憑かれたかのように幻影に引きずり込まれ、五百年前の白痴聖者伝説の、禍々しい真相を目撃することになる。
『懶惰なる山河、山々の襞』一章 解・虫
高校を卒業し上京したばかりのモデルの卵、石野茜。仕事帰り、或るありふれた言葉を引き金として、茜は過呼吸の発作に襲われる。
茜には、モデル仲間に言えない秘密があった。少女時代の怪異体験、そして上京のきっかけ。
茜の思春期は、たびたび「それ」におびやかされ、運命さえ操られていたかのようであった。
故郷の山々の襞に蠢く大いなる「それ」は、暗い故郷を捨て東京暮らしを始めた茜に、今もまとわりつき、彼女をいたぶることを、決してやめようとしない…。
異形の連作暗黒民俗史『懶惰(らんだ)なる山河、山々の襞』。
今ここに、本格開幕の時を迎える!
屍者と救世主・影の棲む家
・屍者と救世主
突如全世界を屍者が覆い尽くした〈厄災の日〉から二十年。人類は限りなく減少し、そして年老いた。男は、人類の墓標のようなビルの廃墟の屋上から、助けを求め駆けて来る人影を見た。それは若い女だった。男のこめかみはチリチリと痛んだ……。
*他、一編所収
屍者と救世主2 屍者と日時計
「屍者と救世主」第2章。
前話から時を遡ること12年、〈厄災の日〉から8年が経過した世界。男が立ち寄ったオフィス街には、まだ死に切っていない気配があった。
屍者に包囲された女、屍者が蠢く巨大な金魚鉢、血肉溜まりの日時計。
生者との不本意な取引に応じた男は、初めて見る頭数の屍者の大群と対峙することになる……。
音
正体不明の金属質の音が鳴り響くと同時に、猟師、スノウホワイト、焼きソーセージが同乗する車から、七匹の仔ヤギが忽然と消えた。そしてその当事者三名以外は、あたかも最初からいなかったかのように、誰も七匹の仔ヤギを憶えていなかった。
にぎやかな病院・果たせない約束をしてしまった人々の話
・果たせない約束をしてしまった人々の話
〈それ〉は、何者でもなかった。ただ、どぎついピンク色の三枚の翅を動かし、不確か にふわふわと飛んでいるだけだった。見える者、気づかない者、いずれの者にも、何ももたらさなかった。〈それ〉は、或る種類の不幸せな出来事の傍を、ただ 漂っているだけだった。〈それ〉は、死にゆくマリアにだけ、様々な人々の話を、静かに語り始めた……。
*他、1編所収
鸚鵡飛ぶ町・卒業
・鸚鵡飛ぶ町
その町では、市街地での鸚鵡(オウム)の急激な増加が問題となっていた。我が物顔で飛び交い鳴き人語を真似る、色鮮やか な鳥の群れ。不可解な体験談の噂も独り歩きしている。中学生の理緒、由紀子、麻美は、不気味な鸚鵡と、不穏な苛立ちを隠さない大人たちとの両方に、不安を 募らせていった……。
*他、1編所収