奇想小説

光る砂

 それは、僕の左手の小指の、爪の裏側に在る。それは、喫茶店の小さなテーブルの表面に在る。
 それは、電車で隣に座った婦人の、頭蓋骨内部に在る。……それらは、すべて、僕の痛みだ。
 原因不明の痛覚が光の粒となって身体外部にまで拡散する奇妙な症状に、孤独に苦しみ続けてきた主人公。そんな彼の前に突然現れたのは、彼と同じ痛みを持った女性、ミドリだった…。

 痛みという極私的な感覚は、二つの魂を結びつける絆となりうるのだろうか?
 痛みを巡る「痛切極まりない」ラブストーリー。

ストーキングウルフの伝説

 その男<狼>が、どこから来てどこに向かうのか、知る者はいない。超人の域にまで磨き上げた運動能力と戦闘技術を駆使する狡猾な狼を、誰も止めることはできない。
 しかし自由なる狼は、表社会での成功や名声にも、裏社会での権力にも、全く関心が無かった。真実の愛、それだけが狼にとっての、唯一の目的、行動指針であり、人生の意味であった。神出鬼没の狼が都会の闇より這い出る時、狙われた標的に逃れるすべなどない。何日もかけて着実に追いつめられてゆく標的は、やがて絶望とともに悟ることになる。
 これはただの変質者の仕業じゃない。怪物が私を狙っているんだ、と…。

Zaxtae Necro Fuendes ―ザクタェ・ネクロ・フューンデス―

 地球暦にして49世紀、もう誰も全宇宙の人口すら把握できなくなった遠い未来。
 コロニーNo.6の大統領デルマキオと第一補佐官にして悪友のセグザーギは、突然のテロ予告を受け取る。
 ZNF、それは未知のコロニー、アムリテカの怒りの神。友邦コロニーNo.2が一瞬で吹き飛ぶ大混乱の中、デルマキオは奇妙な緊急大統領令をコロニー全域に発する。
 これしか助かる方法はない。猫を、真っ黒な猫を探すんだ……。

大賢帝ディオゲネス

『今にして顧みれば、大賢帝ディオゲネスは、もとより狂っていたのだ。極めて早い時期からそうであったに違いない。
 遅くとも、東京を支配下においたあの日には、完全に狂っていたのだと私は思う。
 我々都民は、あの時からずっと、狂人の支配を歓迎し賛美し浮かれ立っていたのだ……』
 古代ギリシアの大賢者、樽に住んだと伝えられるディオゲネスが、強大な奇跡の力を携え、現代の東京に突如現れる。
 ディオゲネスは、東京各地を放浪したのち、新宿駅前で「東京を統治する」との宣言を行う。
 「ここにいまだ、悪がある」次々に改革の剛腕を振るうディオゲネス。都民は嬉々として彼の支配を受け入れるのだが……。

星とミートパイ

 少年〈ハゼオ〉は白い息を吐きながら、憐我鉄道の発着場〈黒い草の丘〉の天辺へと急ぐ。少年はこれから、憐我鉄道に乗り、様々な星を巡り、様々な大人と出会うことになる。それは少年が大人の仲間入りをするための、奇妙な通過儀礼の旅であった……。

お掃除のすゝめ

「吾輩は猫である。名前は言いたくない。人間は押並べて獰悪な種族である。獰悪で阿呆で卑怯で間抜けで我欲に囚われている……」
 近隣住民から疎まれるゴミ屋敷の主、美しきマリリン。そこに出入りする胡散臭い男、隣家の引き籠り息子、ノイローゼ気味の市役所相談員……。
 欲と憎悪と狂気にまみれた愚かな人間どもの痴態と惨劇、「吾輩」だけが、その一部始終を見ていた……。

新しき医学の始まり

「私はただの、通りすがりの賢者だ」
「今ここに、新しき医学を興そう」
 山中の転落事故で大怪我をした父を手当てしてくれた怪人物と、少年との交流は、こうして始まった。
 新しき医学の不思議な治療光景の数々を目の当たりにした少年は、この人物を先生と呼ぶようになる。
 やがて少年は、新しき医学の理念を学ぶ。それは、<生命活動>より<生活活動>を重視する、という奇妙な思想であった。

是非もなし

 ネタを求めて、とある奇妙な事件に巻き込まれた男の家を訪ねた小説家。だがその男は、これ幸いと、無関係とも思える思い出話を語り続ける。話はどこに向かい、いつ終わるのか。小説家は、ただ辛抱強く聞き続けるより他なかった……。